巧告。才能よりも想像心。中島信也さん

巧告。 企画をヒットさせるために広告クリエイターたちが考えること

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中島信也さんの「才能よりも想像心。」の章

キーワードは

  • どんな仕事でも、プロになるまではおもしろくない
  • 想像力とは、「相手の気持ちをわかろうとする心」

CMディレクターの仕事は、とても楽しいもののように見えるそうですが、実際に楽しいものだとやっている僕も思います。現場は本当に楽しい。

でも、僕自身が、現場が楽しいと思いはじめたのは、ほんのこの5年くらいのことです。この仕事をはじめて15年のあいだは、はっきり言って、何いも楽しいことがありませんでした。撮影が終わると、とにかくうれしい気持ちになるわけです。「やった、これで終わった。飲みに行ける」という感じで。

好きな仕事のはずなのに、終わったあとに、ものすごい開放感があった。裏を返せば、それくらいいつも、苦しい、つらいと感じていたということです。
それがはじめて15年めくらいから、こんどは撮影が終わったときの感激が薄れてきました。ある意味では、淡々と終わりを迎えられるようになった。いっぽうで現場での緊張感も、かつてほどではなくなって、ずっと冷静でいられるようにもなりました。

さらに5年、つまり20年めくらいからです。楽しいなと感じるようになったのは。おそらくそれまでは、プロになる過程だったのだろうと思います。

新入社員にもよく話すのですが、どんな仕事でも、プロになるまではおもしろくないものです。ところが経験を積んで、実績を残して、プロになった瞬間、自分で「オレはこの仕事のプロだな」と思えた瞬間から、その仕事がおもしろくもなり、楽しくもなる。

お客様に感謝されるような仕事ができるようになる段階とも言えます。同じことはほかの分野の人たちも言っていますから、きっとどんな仕事にもあてはまることなのでしょう。

ぼくがここで言っている想像力とは、「相手の気持ちをわかろうとする心」のことです。わりと渋い話です。まるでお坊さんの法話のようですが、想像力とは、相手の気持ち、つまりなにかの行動を起こしたときに、相手がそれをどう感じるのかを、推し量って考えられる力。